染色用水中に金属(鉄サビ等)あるいは金属イオンが存在すると、染色時に染料に影響を及ぼし、目的とした本来の色相あるいは濃度が得られないことがあります。
染浴中の金属や金属イオンが染色結果に影響を及ぼす原因としては、例えば次のような点が挙げられます。
@金属イオンと染料との間の錯結合の形成;
例えば、下記のような錯結合によって色相の変化や染着性の低下が生じます。
 |
| (赤色、染着性良好) |
(青味赤色、染着性不良) |
A金属の染浴中でのイオン化あるいは還元性金属イオンの安定化の際に生ずる染料の還元分解;
例えば、
| Fe |
→ |
Fe3+ |
+ |
3e |
| Fe2+ |
→ |
Fe3+ |
+ |
e |
この際に発生する還元力によって染料が還元分解されることがあります。
B 染浴中の金属イオンが染浴中の分散剤と作用;
染料の分散安定性を劣化させることがあり、分散劣化により染着度が低下することがあります。
金属イオンと分散染料との錯結合は、錯結合を起こし得るような化学構造の染料に限定され、アントラキノン系染料について起こり易い傾向にあります。特にアントラキノン系鮮明赤色染料は、金属イオンとの錯結合により色相が青味となるため目立ち易いこともあって、トラブルの原因となる例が多いので注意が必要です。
また、金属イオンと染料との錯結合の程度は、それぞれ金属イオンの種類によって異なっており、Fe2+、Fe3+、Cu2+による影響が大きく、Mg2+、Ca2+による影響は小さい傾向にありますが、Mg2+、Ca2+についても濃度が高い場合には影響が出ます。
金属イオンの影響を防止する方法としては、染浴への金属封鎖剤の併用が有効であり、Fe2+、Fe3+、Cu2+などに対してはEDTAやNTAの中で酸性〜中性のpH範囲で有効なタイプの金属封鎖剤が用いられ、Mg2+、Ca2+に対してはポリカルボン酸系の金属封鎖剤を用いる例が多いようです。
しかし、用水中の金属のイオン化に伴う還元による影響は、金属封鎖剤によっては防止できず、別の問題として考慮する必要があります。
例えば、染浴中に鉄粉が存在する場合は、FeがFe2+またはFe3+にイオン化する際に還元力を生じ、イオン化した後に金属封鎖剤によって封鎖されます。
Fe2+の場合についても一旦金属封鎖剤と結合した後でも、
Fe2+ - EDTA → Fe3+ - EDTA + e
の形でなお還元力を有するため、金属封鎖剤の使用のみでは還元性までを防止することはできません。
還元による影響を防止するためには酸化剤の添加が有効ですが、適量を決定することが困難なため慎重に使用する必要があります。例えば、Fe2+ 50ppmを含有する染浴には、1g/L程度塩素酸ソーダを添加すれば効果的ですが、塩素酸ソーダを過剰に加えた場合には逆に塩素酸ソーダの酸化力が染料に悪影響を及ぼす危険性がありますので、塩素酸ソーダの添加は一般的にはすすめられません。金属の量が余り多くない場合にはm-ニトロベンゼンスルホン酸ソーダなどの市販還元防止剤が利用出来ます。
鉄粉やFe2+による還元分解は、染浴のpHが酸性の側で起り易く、還元分解による影響の一例を示すと下表のようになります。
金属の影響とは別に、使用助剤が原因となる還元分解についても現実にはしばしばトラブルとして発生することがあり、還元の影響を受けやすい染料を使用する場合には、還元作用を有さないような助剤を選択して使用することが薦められます。
金属による還元分解の一例
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Sumikaron Navy
Blue S-GL |
Sumikaron
Turq. Blue S-GL |
備考 |
| 濃度 |
色相 |
濃度 |
色相 |
| 無添加 |
標準 |
標準 |
標準 |
標準 |
|
| 鉄粉 |
33mg/L |
-2 |
2R |
0 |
0〜1Y |
鉄イオン
+還元の影響 |
塩化第二鉄
(FeCl3・6H2O) |
15mg/L |
-1 |
0 |
0 |
0 |
鉄イオンの影響 |
| 50mg/L |
-1 |
0 |
0 |
0〜1Y |
塩化第一鉄
(FeCl2・4H2O) |
15mg/L |
-1 |
1R |
0 |
0 |
鉄イオン
+還元の影響 |
| 50mg/L |
-3 |
4R |
0 |
0〜1Y |
但し、
| 被染色物: |
テトロンスパン糸 |
| 染色濃度: |
1.0%owf |
| pH: |
5 |
| 浴比: |
1:30 |
| 温度・時間: |
130℃×60min |
このような還元によるトラブルを防止するためには還元作用の発生原因を除去することが最も重要ですので、染色用水、染色助剤等にも充分注意を払う必要があります。さらに、染色機内部の空気中の酸素および染浴中に溶解している酸素も還元防止の働らきをしており、密閉型染色機をエアーもれのない状態で充分加圧して染色することが有効な場合もあります。 |