過酸化水素(H2O2)は通常35%水溶液として安定な酸性状態で市販されていますが、アルカリ性になると不安定となり自己分解して酸素と水になる性質を有するため、環境への影響の少ない漂白剤として塩素系の漂白剤に代わってその使用が増えています。
過酸化水素漂白法においては多少処理条件に振れ(用水の水質の振れや繊維上の夾雑物の差異などの要因による)があっても効果が得られるように過剰量の過酸化水素が使用されていますので、処理後に浴中や繊維上にある程度の量の過酸化水素が残存します。
残存過酸化水素は充分に水洗を行い、熱風乾燥を行えば除去分解されるため染色時に問題となることはありませんが、通常の加工では漂白処理後、ウエットの状態でそのまま引き続いて染色工程に入る事が多く、この場合に過酸化水素が10ppm以上残留すると反応染料の反応基と反応して染着障害を生じる事があります。
過酸化水素が残存すると、染色時の斑染めや色振れの原因となりますので、通常は脱過酸化水素処理を行います。
脱過酸化水素処理法としては、チオ硫酸ナトリウム(ハイポ)等の還元剤で処理する方法と、過酸化水素分解酵素(カタラーゼ)を用いて処理する方法がありますが、最近では酵素を用いる方法を採用する工場が多くなっています。
綿糸や綿ニットの過酸化漂白法としては例えば下記のような処方が行われます。
過酸化水素を用いた漂白処方の例;
| 過酸化水素(35%) |
8〜30g/L |
| ケイ酸ソーダ |
3〜5g/L |
| トリポリりん酸ソーダ |
1〜3g/L |
| 硫酸マグネシウム |
0.1g/L |
| pH |
10.5〜11.0 |
| 浴比 |
1:10〜1:25 |
| 温度・時間 |
90〜100℃、60〜90分 |
1) 還元剤による脱過酸化水素処理
上記のような処方で過酸化漂白を行った後に行われる還元剤を用いた脱過酸化水素処理法としては例えば、下記のような処方があります。
チオ硫酸ナトリウムによる脱過酸化水素処方の例;
| チオ硫酸ナトリウム |
1g/L |
| 浴比 |
1:10〜1:25 |
| 温度・時間 |
70℃、10分 |
(チオ硫酸ナトリウム:市販品は5水和物(Na2S2O3・5H2O)の無色透明の結晶で通称ハイポ(Hypo)と呼ばれています)
脱過酸化水素処方で使用する還元剤(チオ硫酸ナトリウム)は、仮に使用量が過剰で処理後に還元剤が残存する場合には、染色時に還元剤による悪影響が生じますので、残存過酸化水素量と等モル量の還元剤を使用する必要があります。
上記の脱過酸化水素処方のチオ硫酸ナトリウム使用量は、前述の過酸化漂白処方で処理した場合の残存過酸化水素量の平均値から得られた「問題の少ないチオ硫酸ナトリウム量」の経験値であり、実際には個々のケースについて夫々の漂白条件に対応する残存過酸化水素量を確認し、必要となるチオ硫酸ナトリウムの量を決定することが勧められます。
染色助剤メーカでは、このような還元剤使用量の制約を緩和し、染色への影響の少ない還元剤組成物を、残存過酸化水素中和剤として開発していますのでこのような製品を使用することが勧められます。
表−1に市販過酸化水素中和剤の例を示します。最適使用量は夫々の製品によって異なりますので各メーカの推奨に従ってください。
| 表−1 市販過酸化水素中和剤の例 |
| 商品名 |
内容 |
メーカ |
| BK−7 |
特殊還元剤 |
洛東化成 |
| エコノンBY |
特殊化合物 |
双龍 |
| クロークスNT |
還元剤配合 |
日華化学 |
| セブノールOHL |
キレート型チオ化合物 |
七福化学 |
| ダイクリンRH51 |
特殊化合物配合 |
大和化学 |
| ニュートロンX |
特殊化合物配合 |
日成化成 |
| マイネックスDHリキッド |
特殊還元剤配合物 |
明成化学 |
|
| 染色ノート第23版(色染社)より |
2) 酵素による脱過酸化水素処理
過酸化水素はカタラーゼと呼ばれる酵素の存在下で分解可能で、カタラーゼの種類によっても異なりますが10℃〜60℃、pH5〜10程度の条件で過酸化水素(H2O2)を短時間で水と酸素に分解します。
酵素(カタラーゼ)を利用して脱過酸化水素処理を行う場合には、酵素が残存しても染色時に悪影響を及ぼす心配が無いため、安全に使用できる点でメリットがあります。
次に酵素による脱過酸化水素処理の例を示します。
酵素による脱過酸化水素処方の例;
| 酵素(カタラーゼ) |
0.2〜0.5ml/L |
| pH |
5〜10 |
| 浴比 |
1:10〜1:25 |
| 温度・時間 |
40℃、20分 |
過酸化水素分解酵素としては、例えば表−2に示すような商品が開発されています。
| 表−2 市販過酸化水素分解酵素の例 |
| 商品名 |
内容 |
メーカ |
| アスクスーパー |
酵素 |
三菱ガス化学 |
| エチロンOL−50 |
酵素 |
洛東化成 |
| カタラーゼU5L |
酵素 |
エイチビアイ |
| ダイクリンB105000 |
酵素 |
大和化学 |
| ユニラーゼC−19 |
酵素 |
センカ |
|
| 染色ノート第23版(色染社)より |
各製品の酵素としての力価は公表されていませんが、夫々の製品毎に異なりますので最適使用量と最適処理条件は各メーカの推奨に従って下さい。
過酸化水素は自己分解する性質があり、夫々の工場の漂白工程の設定状況によって漂白工程後の残存過酸化水素量が異なりますので、自社の工程での残存過酸化水素量を測定して把握されることをお勧めします。
過酸化水素量の分析方法としては、化学分析の知識があれば酸化・還元滴定法で容易に行えます。また測定装置として自動過酸化水素濃度計も開発されていますが高価な装置ですので自社で酸化・還元滴定法が行えない場合には、分析方法について過酸化水素メーカあるいは酵素メーカに相談されることをお勧めします。 |